しばらく間が空いてしまい、連載を心待ちにしていたみなさんには申し訳ない(笑)。
前回までに見たように、バラエティ番組やドラマでのワンシーンとして頻繁に鉄道趣味が登場するようになった。
そしてとうとう鉄道オタクを正面から(?)取り上げたドラマ「特急田中3号」の登場である。
ドラマは第8回の放送を終え、終盤にさしかかったが、少し心配した序盤に比べて面白くなってきた。
セリフの随所に出てくる鉄道ネタ、登場人物らのたまり場である、鉄道グッズに囲まれたカフェ&バーのセットなどは、鉄道ファンから見てもおおむね満足のいくものになっている。
さすが、ホリプロの南田マネージャーが監修しているだけはある(笑)。
ドラマでは、切符を収集するためのブックや、時刻表のダイヤを見ながらの「脳内妄想旅行」、「チャンスがあれば乗りに行け!」などと、鉄道ファンの習癖を現す小物、セリフが続々出てきて僕も思わず笑ってしまう。
「北上線の特急秋田リレー号のような」報われないやつという例えや、「クハ415-1901が廃車になって…」というセリフには、マニアック度の高さを感じた。
ドラマは、初めの1、2回は主人公・田中一郎(田中聖)のホラ吹き的なキャラクターのあくの強さや、「青春ラブコメ」に鉄道ネタを関係づける強引さが少し気になった。
しかし、ロケ現場でも和気藹々としているという若手俳優たちの演技は秀逸。「たったひとつの恋」で好演した田中は、ジャニーズタレントの中でも指折りの演技力だと今回あらためて思った。
鉄道オタクの2人を演じる塚本高史と、秋山竜次の演技も非常に素晴らしく、感激している(笑)。
演技力が高く、イケメン俳優として知られる塚本が、鉄道への執着ぶりを見事に表現。秋山に至っては共演の加藤ローサが「目つきとか震え方がリアルに気持ち悪かったりする(笑)」というほどの熱演だ(笑)。
この塚本と秋山が早口気味に鉄道を語るシーンは必見である。
話の展開のほうも、2人の鉄道オタクを含む6人の主要登場人物がそれぞれに進路、恋愛など青年特有の悩みと向き合いながら友情を深め、成長していくという、ある意味「普通のドラマ」としてもとても楽しめるものになってきた。
出演者たちの鉄道に対する関心も素晴らしい(笑)。
「改めてこうして鉄道を見たり鉄道の話を聞いたりしていると、もの凄く奥が深い世界なので、少しずつ愛着が湧いてきています」(田中聖)、
「どんどん自分も鉄道に興味を持って来て」「憶えた知識を、鉄道を知らない友達に『今日はこういう所まで行って、こういう鉄道に乗って…』って言うのは、ちょっと楽しかったりしますね」(平岩紙)
と、収録が進むとともに出演者が鉄道への興味を強めている。
特に僕を感激させる(笑)のは、塚本と加藤。
塚本は、鉄ヲタを演じるに当たってまず「『こんなのテツじゃねーよ!』と思われるかもしれませんが」と、非常に謙虚な(笑)口ぶり。俳優としてこの姿勢は大切だ。
しかも、ずいぶん鉄道に詳しくなって京王電鉄の車輌を見分けられるまでになり、「自分が一番好きなのは7000系かな」と語る。
加藤は「だんだん鉄道の世界に引き込まれて来ていて…」「小湊鉄道で硬券の切符を買ったり」という。
加藤ローサの口から「硬券」。僕は感動している(笑)。今後、Hoso's pageは加藤ローサを応援します!(笑)。
視聴率は苦戦しているようだが、心配された視聴者の反応はそれほど悪くない。
最も興味があるのは、鉄道ファンでない人がどのように見ているかということだ。これを知るために、「特急田中3号」をキーワードに放送開始から最近までのブログ検索をGoogleで行い、記事をつぶさに読んでみた。イタいジャニオタのブログを読むのはなかなか苦痛であったが(笑)。
それによると、ドラマを見て鉄ヲタの鉄道知識の深さに驚く声が目立つ。
「さすが鉄ヲタ。 時刻表全部覚えてるとかすごすぎだし!!! 」(女子高生)、
「こういう『なんでそこまで知ってるの?』的な感動が やっぱオタク系のドラマで一番テンションの上がる瞬間ですよね!!」(女性)
といった具合だ。
面白いのは、ジャニオタの反応だ。
「オタの世界なんて、みんな一緒だよね。 『鉄』も『タレント』も変わらないかもって思った(笑) 自分見てるみたいで大笑いしちゃったよ。」
「ジャンルは違えど習性的にはジャニファンに通ずるところがあるというか」
と、物事への執着ぶりに共通性を感じる人もいるようだ。
このドラマの影響で前に比べて鉄道に興味が出てきたという書き込みも見られる。
「碓氷峠鉄道文化むら、行ってみたいです」
「すっかり“テツ”の世界に興味深々の私。。。」(いずれも女性)、
「ドラマ見てたらたまには電車の旅もなんか良いな~って思った」
「鉄道マニアって何が楽しいのかよく分かりませんでしたが、このドラマを見ていると、ちょっと魅力が伝わってくるから不思議。銚子鉄道、俺も乗りたくなりました」(いずれも男性)
中には、
「いいよ。江ノ電。単線だから電車が途中ですれ違えなくて待ったりするの。なんか私、テツの素質ある?!f^_^;」(女性)
と、語ってしまう人もいる(笑)。
このドラマが社会に与える影響はさほど大きいとはいえないが、鉄道趣味を題材としたドラマが登場したことの意味は決して小さくはない。
鉄道ファン、鉄道オタクに対する社会的関心の一つの「絶頂」を迎えたといってもいいだろう。
長い歴史を持つ鉄道趣味、鉄道マニアの世界に、なぜ今この時期に関心が寄せられているのか。
この問いの答えは簡単ではないし、僕にもすぐに答えを出す力はない。
だからこの連載の目的も、この問題の結論を出すことではなく、最近のマスメディアが鉄道に光をあてている事象を拾い集めることだった。
今おきている現象は、おそらく、「オタク」という言葉の一般的認知に見られるような、特定の分野に没頭することが肯定的にとらえられる傾向の広がり、それから、公共交通機関としての鉄道の役割や鉄道旅行の魅力の再評価といったことと関係が深いように思える。
また、さらにそれらの土台にあるものは何かを追究していくことも、非常に興味深い。
しばらく時間をおいて、今回の連載が提起した問題について何がしかの考察ができた時には、再び書いてみたい。
鉄オタに追い風は吹くのか。
――微風ではあるが、今既に吹いている、といえるだろう。
鉄道ファンの一人として、鉄道の交通機関として優れている点や、鉄道の旅の素朴な魅力は、もっと多くの人に感じてほしい。
そして、今の一時的で好奇的な現象を一つのきっかけに、鉄道への関心が静かながら普遍的なものとして定着していってほしいと思う。
(終わり)
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