NHK朝の連続テレビ小説「純情きらり」。とても面白く、少し気が早いですが名作の誕生を予感させる滑り出しです。
朝ドラでは久しぶりの時代物。戦争が出てくる作品はかなり間が空き、1999年の「すずらん」にまでさかのぼります。憲法改悪の動きもある中、戦争や平和と向き合った作品がもっとつくられるべきだったとも思います。
さて、今回の「純情きらり」は、戦前の1920年代の愛知県岡崎市から物語がスタート。ヒロイン・有森桜子(宮﨑あおい)がジャズピアニストの道を目指し、戦争を挟む波乱の時代を生き抜く話です。
音楽好きの両親の影響を受け、次第にピアノ奏者を目指すようになる桜子は、「ジャズなど、はしたない」「女は早く嫁に行って家事をし、子を産むのが幸せ」などという古い(当時としてはおそらく普通の)価値観との衝突に悩みます。羽を伸ばしてはばたこうとする鳥のように自分の可能性と自由を求めようとする桜子の姿が肯定的に描かれ、宮﨑あおいもそれをとても溌剌と演じていてさわやか。ドラマでは影を濃くしつつある戦争への批判も垣間見えます。
ある時は教師の「指導」、またある時は祖父や姉の説教などの形で、古い価値観が桜子の行く手を阻みますが、自分が正しいと思ったことを貫く強い意思をもち、まっすぐに歩いて行こうとする桜子の生き方が魅力的で、周囲の人々にも影響を与えていきます。近年の朝ドラでおそらく一番の、このヒロインの芯の強さがドラマの芯にもなっていて、とても感情移入しやすいドラマになっていると思います。
出演者の一人ひとりが素晴らしく、演技が充実しています。桜子役の宮﨑あおいはとても可愛らしく、かつ桜子の魅力を十分に表現しています。僕が演技を観るのは意外にもこのドラマが初めてですが、子役から鍛えられているという演技力は抜群です。
脇役には錚々たるメンバーが揃い、ここまで穴のない朝ドラは記憶にないほどです。桜子の一番の理解者で、当時の人とは思えないほど自由な考え方を持った父・源一郎を、三浦友和が知性と優しさを感じさせて好演しました。
古い価値観に凝り固まるがゆえにしばしば桜子とぶつかり、長女として父の事故死後の有森家を支えようとする笛子役は寺島しのぶ。桜子に感情移入して観ていると笛子が憎らしく思える時もあるほどで、あらためて寺島しのぶの演技力に感嘆します。
有森家に下宿人としてやってきた物理教師の斎藤直道を演じるのは劇団ひとり。ドラマにお笑いタレントが登場すると、浮き上がったり、悪い場合はただの話題づくりになってしまうことがありますが、今回のドラマに見事にマッチした劇団ひとりの演技に驚いています。
実は桜子のことをよくわかっている弟・勇太郎役の松澤傑や、出演は短かったものの将来が頼もしい演技でバトンを渡した桜子の幼少期役の美山加恋も印象に残りました。
今回その演技力に一番驚いたのは次女・杏子(ももこ)役の井川遥です。僕が知らなかっただけですが、今までもドラマなどの出演は少なくなく、受賞経験もあるようです。
母・マサ(竹下景子)を病気で早くに失った有森家の家事を支えてきた杏子は、父亡き後、桜子の音楽学校進学の夢をかなえようと、見合いで資産家と結婚。夫との間には愛情のかけらもなく、夫とその母に厳しくされて家政婦のように働く毎日。悲哀のにじむ表情で妹のためにと耐える姿に多くの視聴者が痛みを感じたのではないでしょうか。
4月29日放送分は、序盤の一番の名シーンでした。杏子が嫁ぎ先でひどい目にあっていることに気づいた桜子が杏子を実家に連れて帰り、夫は杏子を連れ戻しに来ます。真剣に杏子の夫に立ち向かう桜子に心を動かされ、杏子の縁談を積極的に進めた叔母の磯(室井滋)もついに杏子の夫の前に立ちはだかる。胸を打たれるシーンです。
夫が帰ったあと、いつもの明るさに戻って「今の騒ぎで喉が渇いたね。麦茶でも飲もうかね」という磯と、笑顔の家族たち。その途端、堰を切ったように涙を流す杏子。観ているこちらも涙でした。
大島ミチル の音楽も素敵です。
